毎年、私の箏(邦楽)の先生方によるコンサートが松本で
開かれています。
今年も音楽的な発見のある有意義なコンサートを堪能しました。

第一部では秋、春、冬の季節に因んだ曲ということで、曲想も
比較的わかりやすい感じでした。
「秋霖」山本純ノ介
二十絃;有賀喜栄 十七絃;渡辺邦子
前回演奏されたときに、とても気に入ってCDと楽譜を入手したぐらい
好きな曲です。
CDの高域が強調されたくっきりした音より、このホール独特の豊かな響きで、
時に音の重なりでモコモコするのですが、それがまた秋霖らしいとも言えます。
箏のみの演奏では、この組み合わせが音楽表現に一番適していて、2台でも
複数の箏かと思えることもしばしばです。
今年はまさに秋霖のために作物の出来がイマイチのところが多いですね、
それもこの演奏で吹っ切れたかと思います。
「萌春」長沢勝俊
尺八;菅原久仁義 箏;百瀬晴美
長沢勝俊さんの初期の名曲ですね。
あの雅な「春の海」と同じ楽器編成ですが、こちらはまだ雪の残る
田畑を渡る風のような尺八のソロで始まり、
特に笛の音色が良く響くこのホールでは、尺八の美しさがより一層堪能できました。
箏のソロも音色の違いや、速さのコントロールが巧みな美しい演奏でした。
合奏になってしばらくは、少しずつ雪解け水が流れてくるような落ち着いたリズムから、
やがてあちこちに花が咲き始め、嬉しそうな鳥の声も聞こえてくるかと思える
情景が浮かぶ、心地よい明るいリズム感を楽しめました。
こんな曲です。
https://youtu.be/Y4y6NPI-kHs「Snow Falling on the Heart」佐藤容子
箏;横山まり子 三弦;小澤直子 十七絃;有賀喜栄
室内楽から邦楽に至るまで美しい作品を作り出している佐藤容子さんですが、
この曲も日本民族的な要素が現代的な響きの中に取り込まれています。
イントロの箏はパンフの写真のような情景を導き出すのにピッタリで、
上行するアルペジオで一瞬の光がさした、と思ったら、雪が降り始め、
三味線の音は生々しいので雪に抗いながら歩む人間の心を表すようでした。
箏=自然、三味線=人間、という感じです。
ドラマチックな掛け合いがスリリングでした。
映画のラストシーンのように、思いを残す終わり方でした。
第二部は現代作曲家が邦楽作品にも手を染め始めた頃のもので、若干難解(?)。
「茉莉花」牧野由多可
尺八;菅原久仁義 箏;徳武郁子、小澤直子 十七絃;渡辺邦子
大学生の頃にFMで聞いて、初めて現代邦楽を認識した曲で、レコードを
買いました。
イントロの十七絃が印象に残っていましたが、尺八のソロ部分に導かれた
掛け合いから、リズミックになっていくまでが、いかにも現代音楽的(?)です。
リズムにのって展開される部分は和風な趣が加わり、しばし聴き易い...
後半の尺八ソロも笛の持つ細かい表現力を堪能できました。
こんな曲です。
https://youtu.be/G7N7OXDORE8「三面の箏によるカプリース」湯山昭
全員の合奏
@音が外れているかのような始まり方で、いかにも現代音楽という感じですが、
アルペジオが続くあたりから特殊奏法なども楽しめるようになり、
最後の方は都会の息苦しさ(?)のように、これでもか!という感じです。
A現代音楽の作曲家は、どうしてこうも意味のないような(?)旋律を
連ねることが出来るのかとの思いがするのですが(失礼!)、表現方法の問題なのですね、
緊張と解放があれば楽しめるのに、緊張ばかり...
それでも特殊奏法と混濁の推進力は面白かったです。
これからも邦楽の着実な発展を期待しています。